■法事について

●お布施(おふせ)― 清らかな心を、清い金品に託す

 一般には僧侶に対するお礼のことだと思われているようであるが、本来、「布施」というのは、古代インドのことばであるサンスクリット語の”ダーナ“の訳で「あまねくほどこす」という意味です。「檀那寺(だんなでら)」「檀家(だんか)」ということばもここからきています。

 仏教では布施行(ふせぎょう)はもっとも大切な修行の一つと考えられています。

 布施には、さまざまな種類があるが、「法施(ほうせ)」「財施(ざいせ)」「無畏施(むいせ)」の三つに分ける分類がもっともよく知られています。

 「法施」は、僧が仏教の真理を伝え、無形の精神的なほどこしをすることです。

 「財施」は、お金や財物などをほどこすことであり、仏教の考えをいただいたことへの感謝の気持ちを表します。

 「無畏施」は、不安や畏れ(おそれ)を抱いている人に対して、安心のほどこしをすることです。

 法事などで僧侶への謝礼をするのは、このなかの財施にあたるわけです。本来は自分のできる範囲で、精いっぱいの謝念を表わすことなので、金額についての特別な基準はありません。

●施主(せしゅ)― 布施を行う主人

 法事または葬式などの供養をする人のことを「施主」といい、サンスクリット語では”ダーナパティ“といい、布施を行う主(あるじ)のことです。

 法事の場合、案内状を発送したり、僧侶との打ち合わせをするのは施主の役割であり、法事では、施主を中心にすべてのことが展開されるので、まえもって必要事項をメモしておくとよいでしょう。



チェックのポイントは、つぎのような点です。

菩提寺(ぼだいじ)と日時の選定

自宅か、菩提寺か、墓前か、法事場所の決定

案内リストの準備

引き出物、料理の決定

塔婆(とうば)建立者の事前チェック

車などの手配

お布施の準備、供物の用意

焼香(しょうこう)の順番

法事後のお斎(とき)の席順

法事のときのあいさつ文の用意




●回向(えこう)― 故人のために生者が功徳をつむ

 サンスクリット語で”パリナーマ“といい、自分が行った善行をめぐらし、ひるがえして、多くの人々の幸福のためにさしむけることです。回はめぐらす、向はさしむけることを意味します。

 一般に法要を営んで「回向」するのは、施主が御仏と御先祖を供養し、その功徳を自分が受けるのではなく、亡き人にふりむけるという間接的な手続きをとるわけです。

●追善供養(ついぜんくよう)― 故人の冥福を祈る儀式

 「追善」というのは、「追福修善(ついふくしゅうぜん)」の略。亡き人の冥界での苦を除き福を増すために、生きているものが追って善いことを修することです。

 「供養」というのは「供給資養(くきゅうしよう)」の略。仏法僧の三宝や亡き人に供物を捧げること。もしくは法要と同じ意味でも使われます。「追善供養」は一般に、亡き人のために僧を招いて法事を営み、食物を捧げることをいいます。

●合斎(がっさい)― 二人以上の法事を一度にする

 「追善供養(ついぜんくよう)」をする場合、通常は故人一人一人に対して法要を営みます。しかし、同じ年にたとえば亡父の十三回忌と亡母の三回忌が重なるとか、二年続けて二人の故人の年忌法要があるという場合もあり、そうしたときには、続いて二度にわたる法要は、時間的にも経済的にもかなりの負担です。そこで、二つあるいはそれ以上の法要を合わせて一度に行うこともあります。これを「合斎」とか、「併修(へいしゅう)」とよんでいます。

●御仏前(ごぶつぜん)― 供物の表書き

 法事に招かれたときなどに、供物としてさし出す品物や金銭の表書きに使うことばが「御仏前」です。ふつう、四十九日が過ぎてから使う用語とされていて、通夜や告別式では使いません。亡くなった人は四十九日忌を過ぎて、はじめて「仏」になるという俗信があるからです。

 四十九日の間に供えるものの表書きは「御霊前(ごれいぜん)」「御香奠(ごこうでん)」「御香典(ごこうでん)」「御香資(ごこうし)」などとします。年回法要では、「御仏前」「御香資」が一般的です。

 神道の葬儀においては「神饌料(しんせんりょう)」「御玉串料(おんたまぐしりょう)」「御榊料(おさかきりょう)」など、キリスト教では「御花料」「御花輸料」などが一般的に使われています。

●焼香(しょうこう)― 香は仏の心の象徴

 インドでは古来、臭気を防ぎ心身を壮快にする香は、生活の必需品でした。仏教においても香はひじょうに尊重され、象徴的な意義を与えられています。

 香のかおりは仏の使いとも、差別のない仏の慈悲をたたえるものともされ、仏を供養するには欠かせないものとなっています。そこで、葬儀や法事のさいに、参列者が一人一人、香を焚いて礼拝供養することが行われます。これを「焼香」といいます。

 焼香には、左右が仕切られていて、右に沈香(じんこう)または抹香(まつこう)(粉になっている香)、左に火種を入れた香炉が使われます。焼香のしかたは宗派によって多少異なりますが一般的には次のように行えば結構です。ただし浄土真宗のやり方はだいぶ違います。



焼香台の二、三歩前にすすみ出たら僧侶、遺族に一礼し、故人の遺影を仰ぎ見、本尊仏に向かって一礼する

数珠(じゅず)を両手にかけて合掌し、低頭礼拝する

左手に数珠を持ち、右手の中指、人さし指、親指で香をつまむ

香を持つ右手に左手を添えて額のところまで香をいただく。そして、静かに香炉の中に香を落とす

ふたたび数珠を両手にかけて合掌、礼拝する

遺族に会釈してしりぞく


 香をつまんで入れる回数は一回ないし三回ですが、おおぜいの人がつぎつぎにお参りするときは一回ですまします。「回し焼香」といって、焼香台がそれぞれのところに手渡されてくる場合も同様です。

●引き出物 ― 参列者へのお土産

 法要に参列してくださった人々に施主が贈るお土産を「引き出物」といいます。

 古くは饗宴の客に、馬を庭に「引き出して」贈ったことに由来します。

 法事のとき引き出物を必ずださねばならないわけではないが、今日では慣習として定着しています。

 表書きは、黒白か黄銀、あるいは銀一色ののし紙に「粗供養(そくよう)」とし、水引きの下に施主の家名、右肩に故人の戒名(かいみょう)(法名(ほうみょう))と何回忌かを書入し、薄墨を使って書くのが正式とされています。



戻る